訓練生とのひととき Vol.2

Author: Akiko Mori

 

 

2025年に入ってから、お互いのスケジュールが許す限り、ランチタイムに訓練生とおしゃべりをするようになりました。20~30分ほどの短い時間ですが、画面越しに話を聞くことで、彼らの考えや背景がより鮮明に感じられるようになりました。彼らがどんな人生を歩んできたのか、何を夢見ているのかを知ることは、私にとっても大きな刺激になり、新たな楽しみのひとつとなりました。今回は、そんなおしゃべりの中から、ある訓練生のストーリーをご紹介したいと思います。

 

 

夢をつかむために――溶接科Sくんの挑戦

Sくん(18歳)は、学校のあるお隣の州、モン州タトン市街に住んでいます。お父さんがモン人、お母さんがカレン人で、幼い頃に両親が離婚。以来、お母さんと一緒に暮らしてきました。お母さんは麺を売って生計を立て、5歳年上のお兄さんはタイ・バンコクのホテルで働いています。

Sくん自身は、中学校を中退後、住み込みで飲み水を運ぶ仕事をしていました。休みもなく、力仕事で体力的にきつかったものの、住み込みで食事もついていたため、悪くない条件だったと言います。しかし、ふと「このままでは自分の人生は変わらないのではないか」と思うようになりました。そんな時、偶然近所に住んでいたパアン技術訓練学校の先生に紹介され、この学校の存在を知りました。興味を持ち、思い切って応募を決意。こうして、彼の新たな挑戦が始まりました。

 

 

学ぶ楽しさを知る

「中学校では、座って読み書きをするだけで、暗記ばかり。正直、あまり興味を持てなかったんです。でも、この技術訓練学校では教材が豊富で、実技の時間も多いから、学ぶのがとても面白いんです」とSくんは語ります。

今、彼が取り組んでいるのは溶接技術の習得。実は、タトン市街に住むおじさんが小さな溶接ワークショップを営んでおり、8人のワーカーと共に、手すりやフェンス、家具などを製作しています。Sくんは卒業後、そこで働く予定で、すでに今の訓練で学んだ技術を活かせる場があることに喜びを感じています。

「まずはおじさんのワークショップで経験を積んで、いずれはタイでも働いてみたい」と、彼は将来の夢を語ってくれました。

 

 

広がる世界、増える仲間

技術を学ぶことの楽しさに加え、Sくんにとってもう一つの大きな変化は「友達が増えたこと」でした。

「ここに来る前は、仲のいい友達は5人ほどしかいませんでした。でも、今は40人くらいの友達がいます。特に、これまで出会ったことがなかったラカイン人やチン人の友達ができたのは、新鮮な経験でした」

異なる民族の仲間とともに学ぶことで、新しい価値観に触れ、視野が広がっているようです。

 

 

大切な家族への想い

訓練が始まって4カ月。Sくんはまだ一度も帰省していません。それでも、毎日欠かさずお母さんに電話をかけています。

「たいてい、お互いの健康を気にかけ合う会話をします。やっぱり、お母さんの作ったモン料理が恋しいですね。特に、あの麺が食べたいです」

離れて暮らしながらも、家族への想いは変わりません。Sくんの言葉の端々から、お母さんへの感謝と愛情が伝わってきました。

 

 

未来へ向かって

Sくんと話していると、彼がまだ18歳でありながら、自分の未来をしっかりと見据えていることが伝わってきます。学校中退後もただ流されるのではなく、自ら学びの場を求め、新しい環境に飛び込む勇気を持った彼。その姿からは、強い意志と前向きなエネルギーを感じました。

いつか、彼が働くおじさんのワークショップを訪ねてみたい。そこには、今よりもっと成長したSくんの姿があるはずです。彼の夢が実現する日を、心から楽しみにしています。