国家技能標準 資格取得を目指して

Author: Akiko Mori

 

私たちの学校では、時々、卒業生を講師陣として採用することがあります。コロナ禍前に自動車整備科の卒業生1名を指導補助員として採用しました。まだ若くて経験も浅いですから、先輩指導員から学びながら一緒に訓練指導に励み成長してもらいます。

 

その指導補助員が国家技能標準資格試験レベル2を受験したので、その内容についてご紹介したいと思います。

国家技能標準とは

アセアン域内で人々の移動が活発化する中、高度な技術や技能を有する人材の価値とその流動性に関心が高まっています。各国でその進捗は異なりますが、ミャンマーではこの国家技能標準を策定する運営組織として国家技能標準局(NSSA=National Skill Standard Authority)が2007 年に設置され、技能労働者の技能向上や能力開発、産業界と関係を有する各種委員会の運営管理が行われています。

 

レベル1 :Semi-skilled worker

レベル2 :Skilled worker

レベル3 :Advanced worker

レベル4 :Supervisor

ミャンマーでは周辺国に比べてその技術の種類やレベルの導入にも時間がかかっており、現在、資格を取得できる技術種目も限定的です。

 

資格試験

試験会場は技術科目によって異なります。建設や電気分野は学校があるパアン近郊で試験が受けられますが、自動車整備や溶接分野はヤンゴンまで渡航する必要があります。試験費用は今のところ無料ですが、渡航費や滞在費など貧困層の若者には捻出するのが厳しい場合もあります。

 

今回は、弊会指導員補助Mくん1名と卒業生1名が自動車整備分野でのレベル2資格取得に挑戦しました。動力ユニット、シャシ、ワイヤリングの3種目のうち2種目合格するとレベル2合格となります。しかし、この3種目の試験会場は異なり、ひとつはマグウェ(ヤンゴンから更にバスで992キロ)が会場なので一気に複数種目の試験は受けられません。今回は、シャシの試験に挑戦しました。

 

初日は、試験ガイダンスが行われます。国家技能標準の仕組み、試験の進め方、採点方法、合否判定方法、修了証発行についてなど説明があります。また理論・実技試験に関することで不明点があれば試験官と受験生で質疑応答の時間が設けられます。

 

 

実質の試験初日は、理論の試験を受けます。制限時間は90分で20問です。構造・機能と取り扱い方法、点検・修理・調整の初等知識、整備用の試験機・計量器と工具の構造・機能と取り扱い方法の初等知識などがその内容になります。

 

試験2、3日目は実技試験が行われます。受験者は全部で16名だったので待ち時間もかなりあります。2日目は、ブレーキキャリパー・サスペンションの分解点検、3日目はステアリング分解点検・ブレーキテスト・サイドスリップテストと続きます。

 

気づきと提案

Mくんも卒業生も無事に試験に合格。卒業生は、本校入学前に6年間タイで整備士として働いた経験があり、本校で自動車整備について基礎から体系立てて学び、卒業後4年の経験を経て今回の資格試験に挑みました。このように実際に現場で仕事を経験した者に資格を取らせるのが国家技能標準の本来の目的だそうです。

 

Mくんから、レベル2ではブレーキテストやアライメントテスト(5D測定タイプ)に測定機器が導入されていたし外部ワークショップでもかなり導入が進んでるので、我が校でも導入を検討したほうがよいとの提案がありました。我が校の自動車整備科チーフインストラクターは、試験官の資格を保有しているのですが、彼の意見は本校の目指すところは卒業時にレベル2取得技術レベルではないので現状維持でよいというもの。私たちの学校では、4コース(建設・電気・自動車整備・溶接)とも卒業時にレベル1と同等の技能習得を目指しています。卒業後、実践を数年積んだあとレベル2に合格できる人材輩出を目指しています。訓練対象者は、貧困などが理由で公教育を諦めている青年たちですから、基礎教育レベルは高くありません。そういう人たちに優しい、ボトムアップを意識した学校であり続けたいと考えています。

 

このように目指すレベルはいつも仲間同士で確認していないとズレが生じます。今回のMくんからの提案で私たちが目指すレベルを再認識する機会になりました。また、Mくんからの報告書の内容は素晴らしく、最後には今回の受験で貴重な体験ができたことへの感謝とこの経験を活かして指導に励みたいと述べられ締めくくられていて感心しました。

 

高性能の計測機器を導入するより、運転免許を取ってもらうほうが優先順位としては上だと個人的には思います。入学してくる生徒の1割程度しか運転免許をとっていないのが現状です。

 

本校では、今後も国家技能標準資格取得を奨励していきます。先日、ミャンマー国内の電気工求人情報を見ていたら、応募要項に技術高校・技術短大卒業、もしくは国家技能標準レベル2取得者というのを見かけました。少しずつ知名度が上がってきているようです。公教育からドロップアウトした者の技能を証明する今のところ唯一の資格試験ですし、アセアンで通用するのなら取得しておくべきです。しかし、他のアセアン加盟国もこの資格の知名度は必ずしも高いようではなさそうなのでそこは少し懸念しています。